K. Inoue
(更新)
関係代名詞の勉強をしているとき、who や which の前にコンマ(,)を置く形を見たことがある方は多いと思います。
そのとき、「コンマがあるのとないのとで一体どんな違いがあるの?」と疑問に思ったことはないでしょうか?
コンマを置くか置かないかは、一見するととても小さなことで、なんとなく雰囲気で適当に選べばいいと思いたくもなりますね。
ところが、実はこれはとても大きな問題。
たった一つのコンマがあるか(非制限用法)、ないか(制限用法)で、関係代名詞のはたらきや意味が変わってしまうのです。
今回は、そんなくせ者の「コンマ付き関係代名詞」についてご説明していきます。
この機会に関係代名詞のコンマ問題をしっかり解決してください。
まずはコンマを置かない関係代名詞から見ていきましょう。
「私は歌うことが大好きな男の子を知っています」
このようにコンマを置かない場合、先行詞 a boy「男の子」がどのような男の子なのかということを、「歌うことが大好きな」という具合に、関係代名詞 who 以下のまとまりが修飾(説明)することになります。
一般的に、中学3年生で初めて習う関係代名詞の使い方のことですが、これを「制限用法」(または「限定用法」)と言います。
「制限(限定)」とはどういうことかというと、「対象を絞る」ということです。
たとえば上の例では、a boy「とある男の子」とありますが、これだけでは彼がどのような男の子なのかはっきりしません。
スポーツが得意な少年かもしれませんし、勉強が苦手な子かもしれません。
対象が広すぎて絞れないのです。
そこで、who loves singing「歌うことが大好きな」という具合に意味を加えてあげると、どのような男の子のことなのか具体的に絞ることができます。
つまり「制限(限定)」とは、たくさんある可能性の中から先行詞の範囲を具体的に絞り込んで特定していく、ということ。
逆に言えば制限用法の先行詞は、それ単独では特定されない曖昧な要素でもあるわけです。
ちなみにこの制限用法の特徴としては、日本語訳するときには「歌うことが大好きな男の子」のように、後ろから訳出する形になることが挙げられます。
※ただし、英語使用と上達の観点から言えば、このような「返り読み」は避けて、前から意味を読み取っていく訓練をすべきであることは加えておきます。
「僕には野球選手の兄(弟)がいるんです」
「あの人は私が本屋で見かけた女性です」
「彼はとても速い車を持っているんだ」
つづいて、今回のテーマとなっているコンマを置く関係代名詞についてです。
「私はそのお店を知っているのですが、去年オープンしたのですよ」
このようにコンマを置いて関係代名詞を続ける使い方を、「非制限用法」(または継続用法)と言います。
対象を絞り込むはたらきのある制限用法とは違って、非制限用法では対象は最初から決まっています。
上の例文では、the store という特定の店がすでに話題の対象となっているわけです。
そしてコンマに続く関係代名詞 which 以下は、the store についての補足的な説明を加えるはたらきをしています。
つまり、非制限用法というのは「追加で説明を付け足す」役割を持つということです。
意味のとらえ方としては、
「私はその店を知っている」+「その店は去年オープンした」
といった具合に、いったんコンマまでを一つの意味のまとまりとして受け取り、そのあとで先行詞についての説明を加えると考えてみてください。
したがって和訳するときには、制限用法のように後ろから前に向かうのではなく、前から後ろに情報を付け足す訳し方がうまく当てはまるという特徴があります。
「追加で説明を付け足す」非制限用法は、コンマまでをいったん文の区切りとするわけですから、その前後をそれぞれ個別の文として分けて、接続詞で繋げてみる感覚で理解してもよいでしょう。
「私はその店を知っていて、それは去年オープンした」
非制限用法で使われる関係代名詞は、who、whom、which、whose の4つで、that や what は用いられません。
特に that はいつでも使える万能薬のように思われがちですが、そうでもないので注意が必要です。
非制限用法では対象を絞り込む必要がないため、人や場所などの名前(固有名詞)が先行詞になることもできます。
「鈴木氏は、この会社で30年働いてきたのですが、来年退職します」
Mr. Suzuki という固有名詞はすでに特定された人物であるため、非制限用法と相性が良いのです。
逆に対象を絞り込んでいく制限用法では固有名詞は先行詞になりません。同じ名前の人が複数存在するかどうかが問題ではなく、同一人物はこの世に二人と存在しないからです。
非制限用法では、直前の語句だけでなく、文やその一部が先行詞になることもあります。
「親友が中国に行ってしまって、それで僕は悲しくなったんだ」
この文では、「親友が中国へ行ってしまった」という文がまるごと先行詞になっています。
China が先行詞だとすると、「中国が僕を悲しくさせた」という意味不明な内容になってしまいますね。
一体何が先行詞となるかは、文意によって判断せざるを得ません。安易に関係代名詞のすぐ前にあるものが先行詞だと決めつけないように注意しましょう。
「僕はそのパーティーに行ったんだけど、つまらなかったよ」
「マイケルは、たいてい時間通りに来るんだけれど、今日は遅れて来た」
「彼は彼女を好きじゃないと言ってたけど、それは本当のことじゃなかったんだ」
では、ここまでの解説を踏まえて次の二つの文の意味の違いを考えてみてください。
見た目の違いは、コンマがあるかないか、です。
まずAの文は、「野球が大好きな兄(弟)が一人いる」と述べているわけですが、この文では「ひょっとしたら野球以外のものを好きな別の兄弟がいるかもしれない」ことが暗示されます。
野球好きな兄弟は確かに一人だけれど、実は他にサッカー好きの兄やテニス好きの弟もいるかもしれません。
つまり、あくまで「兄弟の中でも野球好きは一人」と言っている(制限している)だけであって、「話者が実のところ何人兄弟なのかは不明」だということです。
これに対してBの文では、まず「私には兄(弟)が一人いる」と述べたところでいったん文が区切れています。
これは「私の兄弟は一人である」と言い切っている(特定している)ということであり、つまり「話者にはそれ以外の兄弟がいない」ことを表していることになります。
そしてコンマ以下で、その一人の兄(弟)について「野球好きである」という説明を加えているわけです。
こうした解釈の違いが生まれる場合があるからこそ、コンマを置くかどうかを適当に雰囲気で選んではいけないということですね。
非制限用法の面白いところは、コンマという「書かれてはじめてその存在を認識できる記号」を用いている、というところです。
文字で書かれた場合にはコンマがあるかないかは見ればすぐに分かります。
ところが、文字を書かない会話の場合には、コンマがあるかどうかを目で見て確認することができません。
では会話の場合には、制限用法と非制限用法をどうやって区別するのでしょうか?
まさか喋りながら「コンマ」と声に出して言うわけにもいきませんね。
目に見えないコンマは、発話においては「一呼吸置いてコンマの代わりとする」のが通例です。
関係代名詞の手前で一拍分のポーズを挟むことで、そこに意味の句切れがあるのだと「無音」の表現で伝えるのです。
コンマすら無音のリズムを生み出すことによって、ネイティブスピーカーは伝えようとするのですね。
それ以外にも方法はあります。
以前にネイティブ英語講師に「話すときにはどうやって区別するか?」と尋ねてみたことがあります。
すると「意味の混乱が起きないように何か別の表現をするなどして工夫する」と答えてくれました。
たとえば「兄弟は一人だ」と言い切りたいとき、
のように ONE を使って少し強調してみせるとか、
「兄弟が一人いて、それで彼は野球が大好きなんだ」
のように AND を挟むことで、「兄弟は一人」という意味の句切れ(言い切り)を明確にする、といった具合です。
逆に「他にも兄弟がいる場合」には、
「僕には兄弟が二人います。一人は野球好きでもう一人はサッカー好きだ」
「(複数の)兄弟のうちの一人は野球好きだ」
といった具合に、全く別の表現で兄弟の複数性を明確にしたり、暗示したりする、ということです。
会話においては、誤解を避け、より分かり易くするために、関係代名詞すら使わないことも選択肢に入れる必要がありそうですね。
いかがだったでしょうか。
コンマを使った関係代名詞の非制限用法についてご紹介しましたが、関係副詞の非制限用法についても「先行詞に情報を付け足す」という考え方は同じですので、今後の学習に生かしてください。
また、上項目でも触れたように、コンマの有無は会話では目に見えないこともしっかりと押さえておきましょう。
英語学習を通じて基本的な文法の仕組みやその意味解釈を学ぶことはとても大切です。
ですが、文脈や背景のある現実の英語使用においては、ときには学んだことがらにとらわれない工夫や、そのための柔軟な発想を持つことも重要なのだということを、コンマの有無が教えてくれているように私は思います。
非制限用法の学びを通じて、そうした「実用英語の工夫」という一歩先のことがらに少しだけ目を向けてみると、また見える世界が広がるのではないでしょうか。